E株式会社 M氏
全国的に建設業務労働者が減少している。
特に沖縄県では鉄筋工・とび職の建設技術者不足、若年労働者の建設業界離れが著しく、沖縄の住環境建設に大きな影響を与えている。
統計によると、平成18年以降、建設業の労働者数、及び年齢別就業者の若年層の就業率が急激に減少し、私たち沖縄の建設業者にとって、建設技術者・若年労働者を確保することができない企業は、企業の存続が危ぶまれる状態となっている。
このように、建設業界から若年労働者が乖離した外的要因の一つは、一般企業の定年(建設業では肉体労働ができなくなったときが定年?)が60歳から65歳となり、この5年間、企業が新規採用を控えていたが、昨年から団塊時代の労働者の65歳定年退職が始まり、一挙に人手不足となり、企業が新規採用者を増やしたため、建設業に来るべき若者・労働者が一般企業に就職したのが原因であると考えられる。
また、内的要因の一つは、公共工事の縮小も一因だが、業界における受注工事の不正入札、手抜き工事、談合等があげられ、キツイ、キタナイ、キケンの3Kの建設業界から若者が遠ざかっていったのである。
沖縄県の建設技術者の平成16年当時、45~50歳の団塊層が大半を占め、この層が今年から引退する年代になったが、この10年間、次の世代の若年技術者を養成しなかったツケが、今、若年技術労働者不足の原因となっている。こういった現状は、私たち経営者に大半の責任があるといえるだろう。
私は、数年前からこの問題に取り組み、建設業界の会合で、若年労働者確保の雇用管理対策、技術労働者の育成を提起しているが、なかなか実現・進展しないのが実情である。
今年の4月5日、沖縄商工会議所で開催された「建設労働者の雇用の改善等に関する法律」に定める雇用管理責任者の研修会に出席し、当日の講師、正司光男先生から、「企業は人なり、人は企業なり」。永続は企業のため、それは労働者のためであり、「人材」を「人罪」とする旧態の雇用管理対策から「人財」とする人の使い方、建設業の近代雇用管理対策を拝聴し、その必要性を共感し、現在、当協会で研修中である。
本土では、東日本大震災の復旧工事、2020年開催の東京オリンピック設備工事が進められ、人手不足・機材・生コン等の高騰が伝えられている。
沖縄の建設業界でも東日本大震災以降、資材の高騰、調達がうまく行かず、人手不足対策は人件費の高騰と悪循環、企業は大きな打撃を受けている。しかし、企業の経営者は、平素から、必要な人材を育成し、資材確保することは必須条件であり、外的要因で人件費の高騰・資材不足で企業の存続が脅かされることは経営者として失格であると私は考えている。沖縄県の建設行政は、技能者育成支援施策をいろいろ打ち出しているが、私は今の沖縄式の育成支援より、なぜ若年者が建設業界へ集まらなくなったのか、今一度、検討・反省し、「水を求める人に、一時しのぎに水を与える」のではなく、「井戸を掘る」施策・行政が必要ではなかろうか、と考える。
近年、沖縄の工業高校・建築専門学校の生徒が、卒業後、建設業へ就職する割合は20%~40%といわれ、そのうち2年以内で離職する人が50%という統計が出ている。原因はなんだろうか。学歴と異なる業種に若者が集まるのは、他業種にどんな魅力があるのだろうか。
今の若者たちは、高賃金以上に自分で自由に使える時間のある業種に魅力があるらしい。
私たちの若年時代は、遊ぶ時間を惜しんで一心不乱に仕事に集中し、勤労の義務を果たし、技能を習得し、企業存続と発展に寄与したものだが、今の若者たちは、そのような意識は存在しないようである。
どんな仕事でもいい、自分に誇りを持ち、最後までやり遂げるといった信念を持った若者はどこにいったのだろうか。今一度幼少期へタイムスリップして、あの時代を思い出してほしい。
子供のころ、先生や親に将来の夢は?と聞かれると、パイロット、大工さん、看護師さんといろいろな職業を口にしたものである。
今の子供たちは、職種でなく生活の安定した職業なら何でもいいと答えるらしい。
このままでは、沖縄の企業は破産してしまう。学校教育で物を創る楽しみ、勤労の尊さ・義務を今一度教える必要があるのではなかろうか。安易な生活より、苦しくても物を創る楽しみを教えることは、産業の発展、また建築技術者等を輩出させると私は確信している。これは沖縄県だけではなく、全国の学校教育の中でも必要ではないだろうか。そんな業種でも、創造する、勤労の楽しさを教える事が、全産業の土台と成り、基本である人材を育成することになる。しかし、これは私一人の力でできるものではない。また行政だけでできることではない。
現在の沖縄の生活環境は、「継続は力なり」と額に汗を流し、沖縄の企業を支え、存続してきた先輩諸兄たちの勤労の賜物だが、このままでは、この大切な資産を食い潰してしまう恐れがある。私は、沖縄の発展なくしては、日本の未来はないと確信している。
今の日本は、少々経済が衰退しても生き続け、衣・食・住の最低生活はできるであろう。しかし、人間としては生きていく楽しさ・幸せは「創造」がなければあり得ない。
私たちは子供たちに、未来の夢を語れる環境を創る使命があり、責務がある。
そのためには、沖縄の生活環境に大きな影響を与える「住」の充実と環境を創りたい。
これが私の夢である。いや夢でなく実現させなくてはならないと考えている。
私、いや皆さんも、今は沖縄の小さな建設業、小さな企業であっても、近代的雇用管理対策を研修し、若者を惹きつける企業、沖縄から世界へ羽ばたく建設業に成長できるよう努力しようではありませんか。