出張規定
役員の方や従業員が出張の際に、その人に対して、交通費・宿泊費以外にかかる食事代や雑費等の経費を実費精算するのではなく、予め決められた額を支払うものです。なお、出張とは、だいたい、50kmを超える遠距離の移動をする場合や、宿泊が必要な場合をさすと考えていただければ結構です。出張手当は、後でお伝えするように、支給する側の会社にとっても、受け取る側の個人にとっても、節税等のメリットが非常に大きいです。そのため、かなり多くの会社が導入しています。
そこで、まず、出張手当の制度を導入することでどんなメリットがあるか、会社にとってのメリットと、受け取る個人の側にとってのメリットをそれぞれお伝えします。
出張手当の制度を導入するメリット
出張手当の制度は、会社にとっても、受け取る個人の側にとっても、両方にとってメリットが大きいものです。
会社にとってのメリット
1.法人税等の節税になる
2.消費税の節税になる
3.社会保険料の負担を増やさずに従業員の手取りを増やせる
個人の側のメリット
1.所得税等がかかることなく手取りが増える
2.社会保険料がかからない
以下、それぞれのメリットについて説明します。
会社にとってのメリット
法人税等の節税になる
出張手当は、出張の際にかかる食事代や、待機時間の喫茶代や、細かな交際費や諸々の雑費について、いちいち費目を問わず一律に支給するものです。それらのお金は、本来、費用として扱うことが難しいものです。なぜなら、いちいち会社に申告し請求することが面倒だし、業務との関連性を厳密に説明しにくいからです。したがって、会社の損金にしにくいと言えます。かし、出張手当として支給することで、そういうこまごまとした費用を損金にしやすくなります。つまり、損金として落としにくいものが、会社の業務のために支出される費用として損金に算入されます。したがって、その分、法人税の節税になります。
消費税の節税になる
法人税以外に、消費税の節税にもなります。どういうことなのか、ここで消費税のしくみについて簡単に説明しますと、消費税は間接税、つまり、消費者が会社等の事業者に一旦支払ったものを、事業者が国に納税するという方式をとります。そして、消費税の計算は、イメージとしては、事業者がモノやサービスをお客様に売った時に受け取った消費税の総額から、物やサービスを買った時に支払った消費税の総額を差し引いて計算します。
モノ・サービスを売って代金を受け取ることを「課税売上」、モノ・サービスを買って代金を支払うことを「課税仕入」と言います。
出張手当は、会社にとって、外から交通費や宿泊費や食事代といったモノ・サービスを買う費用とみなされるので、「課税仕入」にあたります。そのため、出張手当を支給すると、そこに含まれる消費税分の額だけ、消費税の節税にもなるのです。
これがもし「出張手当」でなく「給与」として支給してしまうと、「課税仕入れ」にあたりません。なぜなら、会社を人の体にたとえると従業員はその一部、つまり手足と同じだからです。従業員の働きに対して給与を支払うのは「モノやサービスを買った」とは言えず、内輪でのお金の動きにすぎません。したがって、「課税仕入」ではないので「課税売上」から差し引くことができず、その分、国に対して消費税を余計に支払わなければならないことになってしまいます。
なお、ここで注意していただきたいのですが、これが「営業手当」だと給与になってしまいます。従業員の営業活動への対価として支払うもので、給与の性格が強いからです。
出張手当という名目であれば、あくまで従業員が外に対して支出する経費に充てるものなので、給与損金にならないということです。
社会保険料の負担を増やさずに従業員の手取りを増やせる
出張手当は、上述のように給与扱いされません。したがって、給与の額を基準に計算される社会保険料もかかりません。
社会保険料は通常、会社と個人とで半分ずつ負担するものですが、この負担がないというのは、会社にとっても個人にとっても有益なことです。
個人の側のメリット
所得税等がかかることなく手取りが増える
出張手当は給与扱いではありません。したがって、給与所得として扱われないため、所得税がかかりません。
つまり、給与を同じ額だけ増額するよりも、出張手当として支給する方が手取りが増えることになります。
社会保険料がかからない
「社会保険料の負担を増やさずに従業員の手取りを増やせる」でも述べましたが、出張手当は給与扱いではないので、社会保険料がかかりません。したがって、同じ額を給料の増額という形で受け取ったり「営業手当」として受け取ったりする場合よりも、手取り額が増えます。
つまり、所得税がかからず社会保険料の負担もないということで、二重の意味で手取り額が増えるのです。
出張手当の制度を導入する際の4つのポイント
このように、出張手当の制度を整えることは会社にとっても従業員にとっても節税等の効果が大きいものです。
ただし、出張手当の制度が認められるためには、交通費や宿泊費と一緒に「出張旅費規程」に規定しておかなければなりません。また、税務署の調査が入った時に備えて、出張の記録をその都度きちんと作成することも大切です。「出張旅費規程」の雛形は多く出回っているため、整備すること自体は大した手間ではないと思います。ただし、最低限必ず守るべきポイントが4つありますので、お伝えします。
•日帰り出張と宿泊を伴う出張とに分けて基準を設定する
•役職ごとに常識的な額を設定する
•交通費・宿泊費についても定める
•出張の記録を残しておく
「日帰り出張」と「宿泊を伴う出張」とに分けて基準を設定する
まず、出張手当については、日帰り出張と宿泊を伴う出張とで基準を分けて設定する必要があります。日帰りの出張よりも宿泊を伴う出張の方が、食事代等の費用が余計にかかることが多いからです。
なお、日帰り出張であれば交通費と出張手当、宿泊を伴う出張であれば交通費と宿泊費と出張手当の基準を定める必要があります。
役職ごとに常識的な額を設定する
出張手当の額は、役職ごとに区別して設けるのが普通ですが、常識的な額を設定する必要があります。
以上が出張手当の概略です。
労働時間
労働基準法で、労働時間は「労働者が、使用者の命令指揮権下において働く時間」です。
しかし、労働者が居所から施工現場までは使用者の命令指揮権下ではありません(途中どこに寄り道してもかまいません)。
この時間は、通勤時間です。
だが、建設業では居所から施工現場までの通勤時間がその都度異なります。
そのため出張手当に準ずるものとして出張手当(早出)を支給する方法です。
金額は、時間によって500円から2000円までが上限でしょう。
経理上は、旅費としてください。 (正司 光男)