建設業の働き方改革
「時間外労働の上限規制」が2020年4月に中小企業に適用されるなど、職場環境の改善を目的とする働き方改革が本格的に動き始めています。しかし、建設業界においては諸施策の適用開始時期が大多数の業界よりも遅く設定されており、準備する猶予が残っています。
今回は、導入によって建設業界の労働環境が大きく変わる可能性のある「時間外労働の上限規制」に関して、猶予期間がある理由と開始までに備えるべきポイントを解説します。
時間外労働が常態化。建設業労働者の現状は?
2019年に参議院常任委員会調査室が発表した「建設業における働き方改革の概要―労働環境改善に向けた主な取組―」によると、2018年度の建設業労働者の就業時間は2036時間と、全産業の平均より年間300時間以上も多い結果でした。さらに、週休2日を取得できている人は全体の1割以下、全く取得できない人は4割以上も存在することが明らかになっています。
また、1993年度から続く建設投資の減少や担い手不足が課題の企業が多いことを理由に、時間外労働の上限規制への対策に時間がかかると推測され、これらの理由から4年間の猶予が設けられました。
建設業において働き方改革が必要な理由
「建設業における働き方改革の概要」によると、長時間労働の是正は若者の就職促進に欠かせない「至上命題」と銘打っています。建設業の就職・離職状況を確認すると、2019年の新卒の就職者数は39,000人と前年から約1,000人も減少し、さらに高卒者の離職率は45.3%と全産業と比べて6%高いことが明らかになっています。
建設業の職場に抱かれやすい3K(きつい・きたいない・危険)の「きつい」というイメージを払拭するために、週休2日の導入や残業の抑止は、業界や企業の成長に深く関わる重要な施策です。同様に2024年に建設業界にも適用される「時間外労働の上限規制」は、現状を打破するカンフル剤として期待されており、特別な猶予が設けられたからこそ、各企業には確実な対応が求められているといえます。
2024年までに取り組むべき「建設業働き方改革加速化プログラム」
国土交通省は2024年までに事業規模を問わず、すべての建設業に携わる企業に向けて「建設業働き方改革加速化プログラム」を作成しています。建設業は公共工事など、官民一体で進める事業が多いため、各企業は国や自治体の施策を把握しておく必要があります。
まずは同プログラムで示されている「長時間労働の是正」、「給与・社会保険」、「生産性向上」の3本の柱と概要を紹介します。
長時間労働の是正
2024年に適用される「罰則付きの時間外労働規制」よりも前に、長時間労働の是正と週休2日の確保を進める取り組みが進められています。
■長時間労働の是正に向けた取り組み
公共事業における週休2日工事の件数と実施団体を大幅に増加させ、民間工事でも積極的に週休2日制の実現に取り組む企業を評価する仕組みを確立し、週休2日制の導入を後押しします。また、現場の負荷を少なくするための適正な工期設定を民間・公共工事でも推奨し、既存の「工期設定支援システム」の周知と活用を推進するとしています。
■長給与・社会保険
働き方改革には「キャリアアップの機会の均等化」も目標に含まれています。そのために、技能や経験にふさわしい処遇(給与)の実現と、社会保険への加入をミニマム・スタンダードにするとしています。具体的には国が主導する「建設キャリアアップシステム」の加入者(建設技能者:約330万人)を募るほか、建設技能を「見える化」するための能力制度を策定します。
■生産性向上
長時間労働の上限規制により就労時間を短くしつつ、従来の利益を確保するためには生産性の向上、業務効率化が欠かせません。国土交通省は中小企業を中心とする増員が難しい企業に対してICTの活用を推奨しています。具体的にはICT建機のみで施工する工事の単価を見直すことで、よりICTを活用しやすい環境を整えるほか、「工事書類の作成負担の減少」を目的とした現場のペーパーレス化を進めるとしています。
出典:国土交通省「「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定」
出典:国土交通省「建設業働き方改革加速化プログラム」国の動きを把握し、早めに働き方改革に備える
建設業における働き方改革の影響はそれほど顕著でないものの、国土交通省が2024年よりも前に指針を発表していることから、早期に行動して損はありません。その際は「建設業働き方改革加速化プログラム」の内容を把握して、自社が働き方改革の諸施策を導入するうえでの課題を洗い出しましょう。
例えば、業務を効率化するためのソフトウェアの導入や、社会保険への加入などを一朝一夕で実現するのは簡単ではありません。できるだけ負担を少なく、円滑に職場環境の改善を進めるためには、働き方改革に対する「理解」と「自社の労働環境の把握」が欠かせません。まだ働き方改革が身近でない人は、まずは理解を深めることから初めてはいかがでしょうか。