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お知らせ 2020.10.16

36協定の有効期間、締結されていない残業は?

 36協定の締結がされていない場合の残業命令は違法となり、労働者はこれに従う義務はありません。
•東京地裁の決定に「三六協定の締結、届出がない以上、使用者は第33条に該当する場合以外は、時間外労働又は休日労働を命じ得ないのであるから、労働者としてはこのような違法な時間外労働又は休日労働の命令に従わなくとも責任を追求されない」(S25・10・10宝製鋼所事件)としたものがある。
 なお、労働協約による場合は必ずしも有効期間の定めは必要ありません(労組法第15条の適用を受ける)。
 しかし、現在労基署の窓口が「36協定の有効期間は最長でも1年間とすることが望ましい」とする指導方針をとっているので、協定は、基本的に1年以内の有効期間で締結すべきでしょう。

•参考(経緯)
 昭和27年の施行規則改正までは、有効期限は3ヵ月まで。昭和27年改正から昭和29年改正の間は、労働協約による場合は1年、その他の場合は3ヵ月まで。昭和29年改正から有効期間の制限規定は廃止されました。

•「協定の効力も本条の規定からは右の刑事免責的効力に限られることとなり、時間外又は休日労働命令に服すべき労働者の民事上の義務は、本協定から直接生ずるものではない。」(労働省労働基準局編著「労働基準法」上巻)
「時間外、休日労働を使用者が命じ得べき根拠、言い換えれば使用者の行う時間外又は休日労働に服すべき労働者の義務が発生する根拠は、具体的には個々の労働契約に基づくものであるから、このような契約が存しない場合は、本条の協定が成立しても使用者は時間外又は休日労働を命ずることができず、労働者はこれに従うべき義務を負わないことになります。」(同)

 時間外労働は拒否できないのですか。(使用者が労働者に時間外労働や休日労働を命ずることができる場合の根拠は、何ですか)
•就業規則に「業務の必要により時間外労働を命ずることがある。」等の使用者が労働者に対して時間外労働を命じ得る根拠となる規定があり、かつ、労働基準法第36条に基づく「時間外労働に関する協定」の締結、届出が行われている場合においては、「原則として、労働者には時間外労働の義務が生じ、相当の理由なくこれを拒否することは業務命令違反になる」というのが、多数説の見解です。

•前記の状況において、使用者の時間外労働の業務命令は(一応)成立するものの、時間外労働の場合は、通常(法定内、所定内)の労働とは性格を異にすることから、労働者がこの業務命令に従わないからといって直ちに懲戒処分の対象となるものではなく、労働者の責任を問うには、「業務命令に従わないことが違法な場合でなければならない。」(我妻榮、民法講義「債権総論」)とされています。逆にいえば、労働者は、業務命令当日の時間外労働に従えないことについて相当の理由がある場合においては、これを断ることができると解されます。

•なお、前記における時間外労働を命じ得る根拠は、36協定(刑事罰の免罰効果を有する)ではなく、就業規則の規定であるとされています。
 
 出向の場合、36協定は出向元、出向先のいずれで結ぶか
•「一般には、実質的に指揮命令権を有し、労働時間に関する規定の履行義務を有すると認められる出向先において協定を締結することが必要である。」(S35・11・18基収第4901の2号)とされています。
•なお、関連したものでは、派遣業法にもとづく派遣労働者や出張の場合の取扱いが問題となりますが、この場合、派遣労働者については派遣元。出張の場合は所属事業場となります。

 有効期間中の36協定を、労働組合は一方的に破棄できるか
•期間の定めのある契約は、一方的には破棄できません。
 これに関連した解釈例規では「法第36条により時間外又は休日労働の協定を行っている事業場において、協定の有効期間内に労働者又は使用者より一方的に協定破棄の申入れをしても、他方においてこれに応じないときは協定の効力には影響ない。」としたものがあります。
(なお、協定の中に破棄条項がある場合は、それが定める手続により解約は可。)
•この原則的考えは妥当と思われますが、問題となるのは、使用者側に36協定の違反行為があった場合や締結時に想定できない事情変更があった場合の解約でしょう。
 これらについて、一切の協定解約を認めないとするのは妥当でないと解します。
 最終的には個別事情の判断の問題となりますが、その要件は厳格に解して差し支えないものを思われます。
 36協定は、そもそも、事情変更等に対応できるように有効期間を短期に設定することが可能であるし、制度の趣旨からしてもそれが望ましいのであって、中途解約を広く認める理由に乏しいからです。

 36協定に自動更新の定めがある場合の更新手続は?
•労基法施行規則第17条は、36協定の更新手続を規定していますが、この取扱いに関して次の解釈例規があります。
「36協定の有効期間について自動更新の定めがなされている場合には、更新の届出は、当該協定の更新について労使双方から異議の申出がなかった事実を証明する書類を届け出ればよい」(S29・6・29基発第355号)
•実務的には、「令和○年○月○日に締結し届出済の時間外、休日労働に関する協定は、同協定第○条に定めるところにより労使異議なく、これを自動更新したので届け出する。(労使連署捺印)」
 なお、有効期間が短期(1~3ヵ月等)の場合の自動更新は別として、有効期間が1年間のような協定の繰返しの自動更新は制度の趣旨からみて望ましいことではないと、私は考えます。

 36協定は所轄労働基準監督署長への届出日以降にはじめて有効となります。
•労基法第36条の時間外、休日労働に関する協定届は「・・書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては・・労働させることができる。」の文言に見られるように、行政官庁への届出が効力発生の要件とされています。
•同じ届出でも、就業規則等の場合とは「届出のもつ意味」が違うので注意してください。
 有効期間の始期を付記して受理された協定書は、原則として、所轄の労働基準監督署の受理印日付から有効期間の終期までが当該協定の有効期間となります。

「健康上特に有害な業務」は1日2時間までの残業制限があります。
•労基法第36条には、次の「但し書き」が付されています。
「ただし、坑内労働その他命令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、1日について2時間を超えてはならない。」(労基法第36条但書)
•この規定が適用される有害業務の範囲は、施行規則第18条に定めがあります。
•なお、1日2時間までの意味ですが「指定の有害業務を主たる内容とする業務(関連する作業を含めた一体の一連の業務)に従事した時間数が法定労働時間に2時間を加えた時間まで」と解されます。
 これは、休日労働の場合にも適用され、休日労働は、最長10時間までに制限されます。

 協定締結時に「労働者の過半数を代表する者」であれば、その後過半数割れとなっても協定は有効です。
•労基法第36条の趣旨は、36協定の締結に当って、時間外・休日労働について労働者の団体意思を反映させることにありますから、「本条が協定当事者の要件として要求している労働者の過半数を代表するという要件は、協定の成立の要件であるにとどまり、協定の存続要件ではないと解されます。」(労働省労働基準局「労働基準法」上巻) (正司 光男)