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お知らせ 2020.08.21

建設業の一人親方、コロナで悲鳴

 従業員を雇わず個人で仕事を請け負う建設業の一人親方が、新型コロナウイルスの流行で苦境に立たされています。感染拡大を防ぐため工事が止まり、収入を絶たれた人も少なくありません。企業側の受注や景気の状況といった都合で、仕事量が左右される「雇用の調整弁」になっている側面もあり、立場の弱さがあらためて浮かび上がっています。

 A市の一人親方の男性(52)は3月、掛け持ちしていた二つの工事が一時中止になり、中断している間は賃金が入らない。他に仕事はなく、行き詰まってしまいました。

 再開の見通しは立たず、自分で両方の請負契約を打ち切り、別の現場で収入を得るため、4月中旬から営業回りを始め、工務店から仕事を一つもらいましたが、感染防止で複数の現場を掛け持ちすることは禁じられ、決まりを破れば、「今後は仕事をやらない」と言われました。だが「一つの工事だけじゃ、どんなに頑張っても売り上げは上がらないんです。生活ができないんです」とボヤイています。

 新型コロナウイルス感染までは、売り上げは1カ月に70万~80万円台でしたが、4月は40万円台、5月は30万円台になりました。経費などを引くと、手取りは10万円に満たないようになりました。

 家計は一気に苦しくなり、住宅ローンや、過去に抱えた負債の返済もあり貯金はほぼ尽き、国が打ち出す貸付制度を利用することにしました。

 しかし、日本政策金融公庫が実施する実質無利子、無担保の貸付制度は利用を拒まれました。預金通帳を見てこの貸付制度は、コロナ禍で事業の運転資金を貸し付ける制度だから、「生活費に回すための制度ではない」と言われ貸付制度はダメでした。

「預金がないのは、家のお金を事業資金に回したからなのに、どうしても認めてもらえないんです」。他の貸付制度も預金不足を理由にだめでした。

 男性はこの間、工務店から請け負った仕事の半分を、他の一人親方に回していました。「自分も苦しいけど、小さな子どもがいる人もいる。なんとかしてやらないと」という思いからでした。

 建設業の一人親方は全国で約59万人と推定されています。その立場は、ゼネコンなどの元請け業者の下に、1次、2次、3次の下請け業者が縦に連なるピラミッド型の「重層下請け構造」で、工事を分業する中で“末端”にいるのが一人親方です。

 このため、仕事をもらえるかは、元請けや下請け業者の受注量に左右されます。「一番弱い立場で、仕事の受注は厳しいのが現状です」。

 コロナ禍ではフリーランスについて、補償などの法的保護が課題になっています。しかし、一人親方は保証の法的保護は課題になっていません。
 一人親方にも法的保護制度を制定する必要があります。
 一人親方がなくなると、閑散期に社員を抱えておくようになります。繁忙期には一人親方を利用する効率的な長年の慣行を大切にしたいものです。

 全国建設労働組合総連合(全建総連)によると、組合員約62万5千人のうち、一人親方が約19万人に上る組織です。

 組合員に3回実施したアンケートでは、「4、5月の収入や売り上げが前年同期比でどのくらい減少したか」の問いに、約4千件の回答の4割弱が「5割以上減った」と答えています。生活費や工事中断、現場の閉所といった不安も寄せられています。

 先行きも不透明という。全建総連の担当者は「感染拡大防止で、特に住宅メーカーは3月以降に営業活動を控え、夏以降の仕事がない例があると言い、地方の一人親方は住宅系の仕事が多く、どうなるか」と懸念しています。

「貸し付けを断られた仲間は他にもたくさんいます。なんとかしてほしい。このままじゃ一人親方をやめる人も出てくる」と訴えています。      (正司 光男)