建設業の働き方改革について
建設業でも働き方改革を進めてください
これまで残業時間規制の適用対象外だった建設業界ですが、「働き方改革」関連法案が閣議決定されたことにより、2024年4月1日から建設業にも残業時間の上限が設けられるようになります。
そうなった背景には、以下のような危機感があるためです。
日本全体の生産年齢人口が減少する中、建設業の担い手については概ね10年後に団塊世代の大量離職が見込まれており、その持続可能性が危ぶまれる状況です。建設業は全産業平均と比較して年間300時間以上の長時間労働となっており、他産業では一般的となっている週休2日も十分に確保されておらず、給与についても建設業者全体で上昇傾向にありますが、生産労働者については、製造業と比べて低い水準にあります。将来の担い手を確保し、災害対応やインフラ整備・メンテナンス等の役割を今後も果たし続けていくためにも、建設業の働き方改革を一段と強化していく必要があります。
まだゆっくりではありますが、今後も改革は着実に進んでいくでしょう。以下では国主導の改革取り組みについて解説します。
国主導による「建設業働き方改革加速化プログラム」
国土交通省は、建設業における「給与・社会保険」「長時間労働の是正」「生産性向上」などの働き方改革を実現するため、「建設業働き方改革加速化プログラム」を定めました。建設業の人手不足を解消するための取組みとも言えるでしょう。
•週休二日制や適切な工期設定を推進すること
•技能・経験に合った待遇を可能にすること
•仕事の効率や生産性の向上を今まで以上に促進すること
以上が主な取組み内容です。これらについて、1つずつ詳しく見ていきましょう。
長期間労働是正、週休二日へ
現状、建設業は全産業の平均よりも、年間300時間以上長く働いています。長時間労働の主な原因は、週休二日が取得できていないことです。そこで、週休二日工事を大幅に拡大すると共に、労務費・共通仮設費・現場管理費などの補正と見直しを行っています。
また、長時間労働を防ぐような工期を設定するために、「適正な工期設定等のためのガイドライン」を訂正します。
キャリア支援で給与アップ
給与面では、技能・経験に合った待遇を可能にするために、「建設キャリアアップシステム」始まろうとしています。「建設キャリアアップシステム」は、建設業界で働く人の資格の有無や就業履歴等を登録・蓄積するものです。
また、建設技能者の能力評価制度を定め、この結果によって高い技能・経験を持つ人への評価や企業能力の可視化を検討しています。
社会保険は業界全体で完備
社会保険に関しては、2017年から保険未加入の建設企業には建設業の許可・更新を認めない仕組みとなりました。社会保険に加入することは建設業を営む上での最低基準となっています。
生産性向上のための3要件達成を目指す
生産性の向上のための取り組みとして「効率的な人材・資機材の活用」「仕事効率化」そして「生産性向上に取り組む建設企業の後押し」の3点があげられます。そのための施策の一部が下記です。
技術者の配置要件を合理化
将来的に減少が予想される建設業の技術者に対し、技術者の配置要件の合理化を検討することで、効率的な人材活用を促進します。
また工事書類作成などの負担を軽減するため、新技術の導入と基準の改定をすること で、業務の効率化に取り組んでいます。
企業側からもICTで働き方改革を推進
働き方改革を実現するには、企業側からの社内改革も必要です。そのためには人の業務を効率化し、時には代替してくれるICTの導入を避けては通れません。
今はまだギリギリまわっていても、労働人口が減少している近い将来、人だけではやっていけない局面が必ず訪れます。それに気づいた企業から順に、ICTの導入は始まっています。
ICT導入で働き方改革をスモールスタート
大手建設企業では、ドローンによる3D空撮での測量効率化や、AIによる構造打診アプリを用いた熟練工欠員の補充が取り組まれています。海外では3Dプリンターによる建築もすでに実施され、現場人員の削減に一役かっているようです。
このような大掛かりなICT機器は資本が潤沢でないと投資できず、また専門家も必要とします。いわゆるゼネコンといわれる企業でないと、いますぐ活用することは難しいでしょう。
しかし、規模の小さい企業だからといってあきらめることはありません。次に紹介するようなICTなら、ずっとコストを抑えてすぐに導入でき、即効性のある投資ができます。
ビジネスチャットでコミュニケーション改革が速くて効果的
ビジネスチャットとは、チャット機能や音声/ビデオ通話機能、タスク管理機能などを兼ね備えた、ビジネスシーンに特化したコミュニケーションツールです。
SNSのような操作性で、文章だけでなく画像や動画も手軽に送ることができます。たとえば文字だけでは伝えられない現場の状況でも、離れた相手でも正確に共有できるので、移動時間や連絡にかける手間を削減できます。
「株式会社A工務店」の導入のきっかけ
注文住宅を設計・施工する株式会社A工務店では、代表取締役や現場監督のもとへ、社内外問わず日に100件もの電話がありました。その他にも口頭での連絡や付箋での伝言もあり、伝達ミスや把握漏れを起こさないかが課題となっていました。
そのような背景から社内のIT化に乗り出し、ビジネスチャットである「Chatwork」を導入しました。
成果
Chatworkを導入したおかげで、連絡事項はすべてChatworkのみでやり取りできるようになり、タスク機能で連絡と指示が確実に伝わるようになりました。今すぐ対応が必要でない連絡事項はまとめてタスク化し、電話をかける必要が減ったのです。
さらに建材屋や大工、司法書士などの社外との連絡も基本的にはChatworkを用いることで、注文や発注確認、現場への指示も、優先順位をつけて連絡できるようになりました。
建材屋とは発注ミスが減り、大工には相談箇所を写真で共有することで電話をせずとも要件を確認できるようになりました。
社外関係者ふくめ、業務が楽になったと代表取締役は語っています。
成功のポイント
•社内だけでなく、社外関係者含めてChatworkを活用。
•Chatworkを浸透させるために、口頭や付箋での依頼は禁止。
•タスク管理機能を活用して、納期までのスケジュール感を部下まで共有。
設業界の働き方改革はゆっくりとですが、着実に進んでいます。今後さらに改革を推し進めるためにも、国による支援を待つだけでなく、企業側の努力も必要です。
その大きなキーポイントとなるのがICT導入ですが、必ずしも大型のICT機器でなければならないわけではありません。ビジネスチャットというコミュニケーションツールを使うことで、実は日々の業務を圧迫している「コミュニケーション」の問題を解決できるかもしれません。(正司光男)