建設業の働き方改革
「働き方改革関連法案」が2018年6月29日に成立しました。長時間労働の是正や違法残業の抑止、労働生産性の向上などが大きな目的となり、建設業界にも様々な影響があります。
残業時間の規制について
労働基準法では、法定労働時間(1日8時間1週間40時間)が定められており、この時間を超過する残業や休日労働がある場合は、企業と労働者の間で36(さぶろく)協定を結び、労働基準監督署に届ける必要があります。
時間外・休日労働に関する協定(通称:36協定)とは?
法定労働時間以上の残業や法定休日出勤を課す場合、「時間外労働・休日労働に関する協定書」を締結し、「36協定届」を労働基準監督署に届け出る必要があります。「36協定届」を届け出ずに時間外労働や法定休日労働をさせた場合、労働基準法違反となります。労働基準法第36条に定められているため、「36協定」と呼びます。
これまで適用対象外だった建設業に対しても、時間外労働の罰則付き上限規制が適用されるようになります。「働き方改革関連法案」は、「36協定」における時間外労働の上限規制が大きな焦点となっていましたが、最終的に下記のように決着しました。
時間外労働規制の見直し
1. 原則月45時間かつ年360時間
2. 臨時的に特別な事情があり、かつ双方の合意がある場合、年720時間(=月平均 60時間)
3. 年720時間以内を前提に、複数月の平均が月80時間(休日労働含む)以内、単月なら月100時間未満(休日労働含む)
1に関しては、原則として月の時間外労働(残業)は45時間以内、年換算で360時間(月平均30時間)におさめなくてはいけない、ということです。
2にある「臨時的に特別な事情があり〜」というのは、「特別条項付き36協定」のことを指します。まず「特別条項付き36協定」を説明します。
「特別条項付き36協定」
特定の時期に繁忙期が存在する職種や業種によっては、月45時間の上限を守れない可能性が出てきます。そのような場合、労働基準監督署へ「36協定届」を提出する際に、書類に「特別な事情(工期が逼迫している場合)」を明記し、労使間で協議し了承を得ることで、月45時間の上限を超えることができます。
特別条項の残業上限については、これまで条文に明記されていませんでした。今回の法律改正で上記の年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定することができます。しかし、上限を拡大して45時間を上回る月は1年のうち年6回までです。
建設業の適用はいつから
この「働き方改革関連法案」はいつから適用されるのでしょうか? 一般的な大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月からとされていますが、建設業については5年間の猶予期間が設けられていますので、2024年4月から企業規模を問わずに適用されることになります。
労働時間の把握も義務化
「働き方改革関連法案」と並行して、労働安全衛生法の改正も進んでおり、企業に「従業員の労働時間を適切に把握すること」を義務付ける方向で進んでおります。意外なことではありますが、これまで法律では「労働時間の把握」については明記されていませんでした。とは言え、事業主が保存すべき法定三帳簿に「出勤簿」があるため、ある程度はざっくりと記録していたところも多いかもしれませんが、労働時間の把握は「客観的で適切な方法で行わなければならない」とされる見込みです。つまり時間外労働の上限規制の適用とともに、従来とは異なる厳密な勤怠管理が求められることになります。
36協定を違反したらどうなるか
36協定を違反した場合
2024年4月からは建設業界にも時間外労働の上限規制が適用されます。これまでの内容をまとめていきますと。「36協定」は各事業所で締結する労使協定なので、36協定を従業員と締結していない企業は、残業が禁止となります。また36協定を締結している場合でも時間外労働は「月45時間・年360時間」までが上限となります。「特別条項付き36協定」を締結することで労働時間の上限を増やすことができます。
36協定を違反した場合はどうなるでしょうか?36協定を違反する例として、大きく下記に大別することができます。
36協定を締結していないにも関わらず残業させた
締結時に社員の過半数代表と締結しない 企業側が一方的に指名した36協定で定めた上限を超えて残業させた
このように違反した場合は、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられることもあり、その適用は事業主だけではなく、残業の可否の権限を持っている上司も罰せられることがあります。労基署の調査が入り、是正勧告され、それでも状態と改善しないようですと悪質と判断され、罰則が適用されることとなります。
あと5年、されど5年……準備をすべきことは
今後事業主は残業時間、休日労働を正確に把握していかなくてはいけません。残業代の割増賃金に関しての準備も必要になってくるでしょう。
労働基準法で定められている労務管理の「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の「法定三帳簿」とも直結してくる問題のため、この猶予期間でしっかりと準備する必要があります。
しかし、建設業の勤怠管理は、従業員が現場に赴くため、始業時間や終了時間、残業時間もまちまちで把握しにくいという課題があります。このような変化に対し、人事・労務・総務の方の負担も増します。
働き方改革の目的は、長時間労働の抑制、労働生産性の向上にありますので、長時間労働を前提に考えるのは本末転倒です。「ここまでは残業できる・させられる」と考えるのではなく、「これ以上は残業できない・させられない」と考えるべきでしょう。そのためにもしっかりと勤怠管理をする必要があります。(正司 光男)