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お知らせ 2018.09.28

「始業時刻」の法的定義

「始業時刻」は法律的な意味では、「使用者の指揮命令下に入った時刻」と考えられています。

 たとえば、午前9時が始業時刻の会社であれば、遅刻をしないために早めに来たり、仕事前にコーヒーを飲んだりするため、8時半から8時50分くらいに会社に来る人が多いのではないかと思います。このような場合は、私的な理由で早めに会社に到着しているだけなので「使用者の指揮命令下に入っている」とは言えず、会社到着時刻から始業時刻の9時までは労働時間にはなりません。

 しかし、たとえば始業時刻前にコーヒーを飲んでくつろいでいたところ、上司から「君、ちょうどよかった。始業時刻前で悪いが、至急この資料をまとめてくれないか」と言われたような場合は、「使用者の指揮命令下に入った」と評価されますので、その瞬間から始業時刻までは労働時間となり、時間外手当の対象となります。

 始業時刻前に自主的にパソコンを立ち上げ、メールチェックをしたり、今日の予定を考えたりする時間は、業務との関連性があることは確かではありますが、会社から強制をされているわけではないので、労働時間になるかどうかはグレーゾーンです。

 実務的には労働時間に含めていない会社も少なくないと思われますが、リスクを排除するのであれば、パソコンを立ち上げた瞬間から労働時間としてカウントを開始するか、あるいは、始業時刻前に業務に関連する行為を行うことを禁止し、始業時刻と同時に一斉に業務開始するという実務運用になるでしょう。

「着替え」や「ラジオ体操」の時間は?

 直接の業務ではなくとも、「着替え」や「ラジオ体操」といった、業務の準備のために必要な時間が労働時間に含まれるのかどうかがしばしば問題になることがあります。

 会社の正式な始業時刻の開始後に「着替え」や「ラジオ体操」が行われるならば何ら問題はありません。しかし、始業時刻前にこれらの行為が行われている場合に、時間外労働に該当するのかという問題が発生するのです。この点に関しては、「業務を行うことに必須か」および「会社から義務化されているか」という基準で判断をすることになるでしょう。

「着替え」に関して言えば、制服を着用するか否かは自由であれば、労働時間には含まれまません。しかし、制服の着用が業務上必須であれば、労働時間ということになります。製造業の会社で作業服に着替えたり、ヘルメットなどの保護具を付けたりする時間も当然労働時間となります。

「ラジオ体操」に関しては、自由参加であれば労働時間にはなりません。逆に、強制参加である場合は労働時間になることは言うまでもありませんが、職場の慣習として事実上全員参加の雰囲気になっている場合や、ラジオ体操に参加しないことで上司から叱責を受けたり、人事考課に影響があったりするような場合も、労働時間と考えなければなりません。

 会社はどのように始業時刻を管理すべきか?朝のタイムカード問題

 以上を踏まえ、会社は始業時刻の管理をどのように行うべきでしょうか。 理屈上は、各社員が「使用者の指揮命令下」に入った瞬間にタイムカードを打刻したり、パソコンや携帯アプリで「業務開始」ボタンを押せば良いということになります。

 しかしながら、たとえば、午前9時始業の会社で、始業時刻に業務を始めようと思ってコーヒーを飲みながら新聞を読んでいたら、8時45分に顧客から電話がかかってきたので成り行きで業務開始となった場合は、電話で顧客対応をしながらタイムカードを打刻するのは現実的に不可能です。

 現実的に不可能な「机上の空論」の打刻ルールを運用しようとしても、職場に定着するはずがありません。ですから、会社は、社員が無理なく対応できる打刻ルールを定める必要があります。一例ですが、たとえば、午前9時が始業時刻の会社の場合、次のようなルールが考えられるでしょう。

 タイムカードは実際に出勤した時刻に打刻してください。
 タイムカードの打刻時刻が午前9時以前であれば、実際の打刻時刻にかかわらず、原則として午前9時から勤務開始したものとみなします。
タイムカードの打刻時刻が午前9時以降の場合は、原則として午前9時から実際の打刻 時刻までを「遅刻」として扱います。
 タイムカード打刻後、特別の事情があり、午前9時以前に業務を開始した場合は、指定の社内書式で勤務開始時刻を届け出てください。(届出が無い場合は、午前9時から勤務開始したものとして扱います)


 このようなルールであれば、現実的に社員も対応が可能であり、労働基準監督署の調査があった場合も、充分に耐えられるでしょう。

 まとめ_朝の正しい勤怠管理とは?

 始業時刻の管理は、これまでは会社が社員の「好意」に甘えていた部分が少なからずあったと思います。しかし、これからの時代、そういった曖昧な労務管理はどんどん許されなくなっていくでしょう。

「着替え」や「ラジオ体操」であっても、法的に労働時間になるものは労働時間に含める必要があります。また、始業時刻前に、電話対応を行ったり、上司からの指示を受けたりした場合は、きちんと労働時間としてカウントしていかなければなりません。

 労務リスクを回避したり、社員からの信頼を得るためにも、始業時刻管理は適切に行っていきたいものです。 (正司 光男)