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お知らせ 2018.07.10

人手不足倒産

 人手不足で人件費増の果てに…
 売り上げが伸びても、人件費の負担増で経営に行き詰まるケースも起きています。

 建設会社の元社長は、3年ほど前から現場を管理する技術者の確保が難しくなったと語りました。会社では給与の上限を50万円からさらに引き上げ、知人にも紹介を依頼しましたが、それでも人材を確保できず、外部の技術者に頼らざるを得なくなりました。

 その結果、人件費が膨らむことになり、工事の受注増加で売り上げは伸びたものの、それ以上に赤字が膨らむ悪循環に陥り、破産に追い込まれました。

元社長は「現場を管理する人が足りない状況の中で、予算的にオーバーした形で進んでいくと、積もり積もって大きな数字になっていった。人材はいくらでも確保できるという感覚でスタートしている部分もあったので、想定もできていなかった」と語りました。
 人手不足を理由に経営が破綻したいわゆる“人手不足倒産”は年々増えていて、民間の信用調査会社によると去年は、106件に上りました。人口減少の加速で働き手はますます減っていくだけに、今後、状況はさらに厳しくなっていくことが予想されます。

人手不足で人材争奪の動き

 こうした中、企業の間では“人材争奪戦”とも呼べる動きが出ています。

都内にある人材のヘッドハンティングを請け負う会社には、中小企業などから中堅・若手の人材を求める依頼が相次いでいます。

例えば、建設会社から現場を管理できる技術者の獲得を依頼された場合、所在地や売上高を参考に、該当する人材がいそうな会社をリストアップします。そのうえで、それぞれの会社が手がける工事現場の表示などから現場を管理している人物を特定します。そして、名前と会社名を基にアドレスを何パターンもつくり、メールを送ります。コンタクトが取れれば、面談にこぎ着け、本人の意向や能力を確認して依頼主の条件に合っていれば、紹介します。

紹介料は、成功した場合、1人当たり数百万円に上ります。それでも、依頼してくる企業は後を絶たないといいます。

人材確保は将来への投資

 多額の紹介料を支払ってでも、人材を確保しようという会社はどんな考えを持っているのか。

 ヘッドハンティング会社の顧客である千葉県にある建設会社は、これまでに30代から40代の人材を4人紹介してもらい、さらに2人紹介してもらうよう依頼していました。

社長は「これからはもう 人材確保競争だ。人がいなければ、企業は成り立っていかない。だから、10年後に必要な人が不足すると思ったら、不足が生じる前に投資をしていくことが絶対に必要だ」と話していました。

人口減少が加速する中で、将来を担う若い人材を確保していかなければ、さきざき立ち行かなくなるという危機感のもと、ヘッドハンティングを 将来への投資として位置づけているのです。

 人手不足を克服するには?

 深刻化する人手不足をどう克服していけばいいのか。3人の専門家は次のように話します。

 日本総合研究所の山田久主席研究員は、退職したものの意欲も能力もあるシニア世代に活躍してもらうことが当面の対策として効果的だといいます。

 野村総合研究所の岸浩稔主任コンサルタントは、AI・人工知能やロボットによる自動化をあげます。すでにコンビニでは無人レジの導入に向けた動きが出ていますし、開発が加速する自動運転車の活用も期待できそうです。

 日本国際交流センターの毛受敏浩執行理事は、外国人労働者の活用が欠かせないと指摘します。今は、就労ビザを持たない多くの外国人が技能実習生などとして働いていますが、こういった形だけでなく、働き手として定住できることなどを真剣に考えるべきではないかと話しています。


“人手不足倒産”の背景には、労働環境の厳しさや待遇面での不満など、ケースによっては、会社が社員を大事にしていない実態もありそうです。ただ、私たちが直視しなければならないのは、これから働き手が激減していく厳しい未来です。

15歳から64歳までの「生産年齢人口」は1995年をピークに減少が続き、直近の2015年では7700万人余りと、すでに 1000万人ほど減っています。この動きは今後さらに加速し、2050年にはさらに2500万人近く、落ち込むと予想されています。(正司 光男)